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vol.12

今号の研究テーマ

ヒゼンクラゲ(シロクラゲ)とビゼンクラゲ(アカクラゲ)

「肥前クラゲ」と「備前クラゲ」、どちらも地域の名前がついているが、有明海沿岸地域で食されているのは、通称アカクラゲ=ビゼンクラゲだ。えっ? ヒゼンクラゲじゃないのか?!そんな風に叫びたくなるが、この機会に「ヒゼンクラゲ」と「ビゼンクラゲ」がどう違うのか、紹介してみよう。

 ビゼンクラゲ…、ビゼンは「備前」である。今の岡山県だ。昔は瀬戸内海でもクラゲの産地があったのでこの名前がついている。明治時代に岸上鎌吉さんという方が「系統分類学」という研究分野のルールにしたがって整理し、「ビゼンクラゲ(学名:Rhopilema esculenta)」ということになっている。一方で,有明海地域の地名由来のクラゲもある。
 ヒゼンクラゲ (学名:Rhopilema hispidum)である。地名がついているということは、昔はこちらの種類が多かったのかもしれないが、それはさだかではない。有明海地域ではヒゼンクラゲを「シロクラゲ」と呼ぶが、全国的に言うところの「シロクラゲ」とは異なる。


※参考:一般的にいうシロクラゲ(動画:加茂水族館のシロクラゲ)


ビゼンクラゲ(英名/Jelly fish)

ヒゼンクラゲ(英名/Jelly fish)


 さて、この2つのクラゲ(ビゼンクラゲ、ヒゼンクラゲ)、皆さんは見分けがつくだろうか? 半球状の傘に根っこのようなものがくっついている、という形状はどちらも同じような感じである。どこが違うだろうか? この違いを国立研究開発法人水産研究・教育機構日本海区水産研究所が写真入りで丁寧に紹介している。


出展:国立研究開発法人水産研究・教育機構日本海区水産研究所


 この資料は、日本海で「エチゼンクラゲ」というクラゲが大量出現したときに、そのクラゲとほかのクラゲと見分けるために作成された資料である。クラゲ業界(研究者や愛好家、水族館クラゲ飼育員、クラゲを取り扱う業者など)のなかでは食用になる「ビゼンクラゲ」「ヒゼンクラゲ」「エチゼンクラゲ」を「3ゼンクラゲ」と称したりするが、それほど似ているクラゲである。ビゼンクラゲとヒゼンクラゲを簡単に見分けるのは2点で、それらは、①傘の表面 ②口腕付属器の長さ、である。傘の表面は、ヒゼンクラゲがつぶつぶの斑点があるのに対してビゼンクラゲはない。つぶつぶしている部分は褐色の色がついている場合が多いが、そうでないこともあるのが難しいところ。このつぶつぶのおかげで手触りも違うが、それは実際に触って慣れないと解らないかもしれない。また、2つのクラゲは「口腕付属器」の長さが違う。口腕付属器って、どこだろう?


ビゼンクラゲとヒゼンクラゲの見分け方


 クラゲの体の名称は、人によって言うことがことなる。傘のしたにくっついている部分を「足」と呼ぶ人も居るし「頭」と答える人も居る。ここでは学術的な名称を使うことにしたい。傘の部分は「傘」、傘の下に付いている根っこのような部分を「口腕」と呼ぶ。さらに口腕の先に伸びる棒状のものを「口腕付属器」と呼んでいる。口腕付属器はとれやすくてこれがないものもいるが、もともとはあったはずで、何かの拍子にとれてしまったということになる。それで話は戻るが、口腕付属器の長さは、ビゼンクラゲが長くてヒゼンクラゲが短い。


 その他の違いとして「色」と答える人も居るかもしれない。しかし、インターネットで「ビゼンクラゲ」または「Rhopilema esculenta」と検索して欲しい。すると、赤くない「青白いクラゲ」もビゼンクラゲと称しているサイトがあるはずだ。なかには別のクラゲを誤認しているサイトもあるが、実はビゼンクラゲには「褐色のもの」と「青白いもの」の2種類が存在する。これが更にこの2種類の分類をややこしくしているところだ。
 図鑑によるとビゼンクラゲは、九州から北海道南部まで広く分布するとされる。このなかで赤い(褐色)のものを多く算出するのが有明海だ。なので私は「有明海産ビゼンクラゲ」というような言い方をしている。新しい図鑑によっては、ビゼンクラゲと有明海産ビゼンクラゲは別物かもしれないと書いてあるものもあるが、この原稿を書いている時点では、どちらもビゼンクラゲである。さらにネットで「ビゼンクラゲ」をよくよく検索するとさらに「スナイロクラゲ」という名前もでてくるのだが・・・・これを説明しているとさらにややこしくなるので、別の機会にまわしたいと思う。
 ともあれ、有明海に限って言えば「赤クラゲ」「白クラゲ」の表現は妥当で、色で分類してもほとんど間違いはないだろう。

ラボ主任研究員

有明海研究者

藤井直紀

NAOKI FUJII

PROFILE

1977年(昭和52年)生まれ。広島県広島市出身。広島東洋カープファン。生物海洋学研究者。国立水産大学校にて水産学を学ぶ。広島大学大学院生物圏科学研究科にて学位を取得。愛媛大学沿岸環境科学研究センター(通称:CMES)にて瀬戸内海の環境変化やクラゲに関する研究をしたのち、2011年2月から佐賀大学低平地沿岸海域研究センターに赴任。有明海の環境変化に関する研究に携わるとともに、研究者と一般市民をつなげる「サイエンスコミュニケーション」活動を行っている。研究に熱中するあまり未だ独身(?)。鹿島市を拠点とする任意団体「まえうみ市民の会」副会長。中国地方を拠点に活動するNPO法人ちゅうごく環境ネット副理事長。